気ままに本要約ブログ

本を読んでアウトプットすることではじめてインプットできる!自分自身の為と、ブログを読まれた方へ少しでも参考になれば良いかなと思い、気ままに書評を書いていきます。

「価格上昇」時代のマーケティング

ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰、そして急激な円安により、輸入に依存している原材料費の高騰が拍車をかけ、日常のあらゆる物が値上げされている。しかし、原価上昇による値上げのため、利益には転換されていないのが現状だ。

 

安い日本に起こる未来

ビジネスを営む者にとっても、この物価高は大問題だ。値上げをしたら顧客が離れてしまうかもしれない。価格にシビアな日本人は、安いのが当たり前で、長らく値上げをしてこなかったサービス提供者もまた、「値上げの方法」を知らない。

そうしているうちに、世界各国ではインフレが起きていて、いつのまにか日本が安い国になっていた。日本の中だけで完結できるのなら良いが、グローバリゼーションの現代においては、そういうわけにはいかない。たとえば、カニや牛タンなど、中国が買い占めていて、日本が「買い負け」して入手できない、あるいは買ってもめちゃくちゃ高い。中国だけでなく、インドやインドネシアといった人口の多い国々で富裕層や中流層が増加していくと、さらに日本は「買い負け」続けていくだろう。

 

消費者は二つの顔を持っている

安い日本になってしまった大きな理由は、日本人のデフレマインドであり、一円でも安くてはならないという呪縛だ。戦後の高度経済成長下においては、大量生産により「とにかく安くすること」が最優先だった。その後皆んなが豊かになり、必要なものは広く行き渡った。しかし、サービス提供者はその後も安く安く、良いものをより安くというマインドは変わらなかった。消費者の方も「節約マインド」は変わらない。

しかし一方で、生活費の節約に励んでいる主婦が、趣味の韓流関連や、ママ友と行くアフタヌーンティーには大いにつぎ込んでいたりする。つまり、ここでいう「節約」とは、「予算配分」の話であり、限られた予算の中でどう配分して使うかという話である。自分にとって意味があるものに対しては厭わず使い、そうでないものは徹底的にケチる。

 

「役に立つ」より「意味がある」

それでは、自分にとって意味があるものとはなんだろう。たとえば、燃費もよく高性能で壊れにくいトヨタの車はとても「役に立つ車」だ。一方、ランボルギーニフェラーリはうるさくて二人しか乗れないし日常で使うには不便だが、とても「意味がある車」だ。役に立つトヨタ車よりも意味のあるスーパーカーの方が価格がはるかに高い。利益率も雲泥の差だ。

たとえば、コンビニで売っているハサミは1、2種類くらいしかないが、タバコは何十種類もの銘柄が売られている。つまり、役に立つハサミは、競争率の高いコンビニで選ばれるのは1、2種類しかないが、役に立たないが(喫煙者にとって)意味のあるタバコは、何十種類も置いてもらえるということだ。ここで何が言いたいかというと、どんなジャンルにおいても、「意味がある=価値が高い」ということだ。

 

「価格」は「価値」に従う

お客様にとって意味のある商品やサービスにするにはどうすれば良いか。それは、その商品の「価値を伝える」ことだ。お客様がものを買うまでには、二つのハードルがある。最初のハードルは「買いたいか、買いたくないか」で、二つ目のハードルが「買えるか、買えないか」である。そして、ハードルが高いのは一つ目の「買いたいか、買いたくないか」であり、つまりお客様に「この商品を買う意味」を伝えることである。「価格を語る前に価値を語れ」が鉄則である。「価格」は「価値」に従うものだ。

伝える方法は、POPやチラシや看板、何でも良い。ここは行動経済学の領域だが、お客様の心理を掴み、インサイトをつく内容が良い。サービス提供者では当たり前のことが、消費者には当たり前でないことも多い。その専門知識を教えてあげるだけでも価値は上がる。でもこれは、実験する感覚でとにかく数を打って試すしかない。トライアンドエラーを繰り返しやることが大事。

 

比較対象を変える

価値を上げれば価格も上げられるが、値付けの際に一つポイントがある。それは、比較対象を変えるということだ。たとえば、インスタントラーメンの価格を決める際には、他社のインスタントラーメンと比較するのではなく、リアル店舗のラーメンと比較させるようにする。つまり、リアルな店舗の味を表現できれば、700円で売っても「ラーメン店に行くより安い」となる。スーパーで売っているお菓子も、高級感のあるパッケージで包み、POPに「デパ地下レベルのおいしさ」などと書けば、お客さんは「デパ地下のスイーツ」として認識して安く感じてもらえる。健康食品やサプリメントであれば、比較対象を「スポーツジム」にしてもよい。健康になる目的であれば同じことだと言える。これらの例は、もちろん品質に自信があってのことだが、逆に言うと、自信を持っている商品であれば、同業他社と比較するのではなく、もっと上位のジャンルと比較して価値を上げれば良い。

 

「返報性の法則」を活かす

中には、価格を上げられないものもある。国によって報酬が決められている医療費や、定価販売が義務付けられている新聞や雑誌、書籍など。その場合には「返報性の法則」を利用することだ。

「価格」は「価値」に従うものなので、価値を上げていけば価格も上がるのが自然だが、価値が上がっているにもかかわらず、価格が上がらないと、ここに「差分」ができる。すると、人の行動原理として、その差分を埋めて「等価」にしたいと考える。これが「返報性の法則」である。

具体的に何をするかというと、まずは定期的に通うようになりリピート購入する。そして何か別の提案を受ければ喜んで受け入れる。クロスセルをすんなり受け入れてくれる。お客様は心理的に等価になるよう行動してくれる。つまり、価格が変えられない境遇でも、粛々と価値を上げ、提供し続けることで、顧客のライフタイムバリューを上げることができる。

 

BtoBで価格を上げるために

それでは、シビアな法人顧客に値上げを受け入れてもらうためにはどうすれば良いか。ここでもポイントは「価格は価値に従う」だ。しかし、一個人に価値を説明するよりも、より丁寧に伝える必要がある。ビジュアルにこだわったパンフレットや、分析や数値も入った専門的な資料など、ツールには力を入れる。法人の場合には「買う」に至る意思決定者が何人もいるため、より説得力のある説明が求められる。

もう一つ大事なポイントが、「関係性」が「価値」を作るということだ。たとえば毎月の請求書に手書きのメッセージを添えるとか、相手も人間だから感情を動かすことも必要。常に「GIVE」の精神を持ち接することで、相手のマインドシェアを獲得する。

 

マスタービジネスで価格から解放される

商売人は自分の商売の分野において、お客さんよりずっと詳しい。お客さんは自分の知るべきことを知らずに苦労していたり、もっと楽しい世界があるのを知らないまま探している。ならば、商売人はそれを解決すべく、顧客に有益な価値を提供する「師匠」であるべき。「マスター=師匠」ビジネスとは、お客さんがまだ知らない価値を教えることによって、お客さんから対価を得ることである。それは同時に、「お客さんを育てる」ことでもある。こちらが価値あるものを売ろうとする時、お客さんがその価値を十分に理解できるだけのリテラシーを持っていることで、その価値がより伝わるようになるからだ。お客さんを価値のわかる顧客に育てていくこと。そして違いがわかる人になればなるほど、品質の高いものにはちゃんとそれだけの対価を払うという意識になる。

 

最後に

日本のように成熟した国では、生活していく上で必要なものはすべて揃っていて、東南アジア諸国のように、もっと便利な物が欲しいとか、もっと良いサービスを受けたいとか、物欲や成長欲が薄れてきている。なので、これと言って欲しい物が無い状態である。

であれば、欲しくなる物を提案していかなくてはならない。いまだ知らない「価値」を、消費者に教えてあげなくてはいけない。それが生活に役立たないものであっても、それがどんなに無駄な物でも、「自分にとって価値があるもの」であれば、価格はそんなに気にしないで購入するだろう。そもそも日本人はお金を貯め込みすぎなのだ。裏を返せば、欲しいと思うものが少な過ぎるのだと思う。成熟した世界においては、「無駄な物=豊かさ」であると言える。ゆえにアートや芸術品が育つのだろう。