気ままに本要約ブログ

本を読んでアウトプットすることではじめてインプットできる!自分自身の為と、ブログを読まれた方へ少しでも参考になれば良いかなと思い、気ままに書評を書いていきます。

野球データ革命

近年の野球は、データ野球と言ってもよい。メジャーリーグで定番化された極端な内野シフトが象徴的である。すべての打者ごとに過去の打球方向がデータ化され、よく飛ぶ方向に守備を配置する。確かに合理的だ。

大谷翔平に対しても極端な右寄りシフトが敷かれているが、おそらく大谷の技術ならガラ空きの三遊間を狙ってヒットにすることは出来るはず。でも、大谷はホームランバッターなので、基本的にはいつもホームランを狙っている。結局は、奇を狙って三遊間に打たれるより、ホームランを狙ってフルスイングする確率が圧倒的に高いため、このシフトは変わらない。

 

ところで、どのようにデータを収集しているのかというと、ある特別な装置がある。メジャーリーグはもちろんだが、NPBにおいても、すべての球場にスタットキャストというシステムを導入していて、投球と打球のすべてのボールの軌道をトラッキングしている。(トラックマンという計測器で測るのだが、もともとは、弾道ミサイル迎撃用の「パトリオット」の開発で、弾道を解析するために生まれた、軍事用レーダーにも使われる装置から、開発された製品である)

スタットキャストにより、投手や野手のあらゆるデータが瞬時に確認できるようになった。そして、各球団には、データ分析に長けたアナリストが採用され、監督やコーチとは別の視点でチームに貢献している。

それでは、投手と打者のそれぞれの視点でデータを見てみる。

 

投手

まず、どんな投手が失点を防げる投手なのか。代表的な「防御率」という指標があるが、これは守備力も関係してくるため、正確にそれを表してはいない。打者はバットに当てればエラーやポテンヒットの可能性もある。よって、バットに当てさせない投手、つまり「奪三振数」が多い投手がよい。かつ、「四死球」と「被本塁打」が少ない投手。これが最も失点を防げるタイプの投手だ。この三つの指標で、優れているのが、山本由伸、千賀滉大、リリーフで言えばモイネロだ。

そして、これらの投手にも共通する点だが、球速も大事な要素である。まず、球速が140キロの場合、打者までは0.45秒だ。打者はスイングすると決めてからインパクトまで、どんな打者でも0.26秒はかかる。つまり、残りの0.19秒で球を見極め、打つか打たないかの判断をしなければならない。

ストレートの球速が速いということは、打者は早めに見極めなくてはならない。そして、変化球かどうかを見極めるタイミングも早くなる。つまり、球のスピードが速ければ速いほど、打者は見極める時間が短くなる。よく、とんでもない高めのボール球を振る姿を見て、「見逃せばよいのに・・」と思われるが、見極められないのだ。

ちなみに、NPBの平均速度は145キロ、大学生は140キロ、高校生は135キロだが、メジャーは150キロだ。やはりメジャーで活躍するにはこのスピードボールに慣れる必要がある。

また、打ちづらさでいうと、すべての球種を「ピッチトンネル」を通すことがあげられる。ピッチトンネルとは、球をリリースした瞬間からできる限りホームベースに近いところまで同じような軌道に見せる「トンネル」に通すことだ。よく、ストレートとフォークの見極めが出来ずに、面白いようにクルックルッと空振りさせられる投手がいるが、まさにこのピッチトンネルを通され、打者からは手元にくるまでどっちか分からない状態なのである。その際、ストレートは、低めのピッチトンネルではなく、高めに照準を合わせた方がよい。なぜかと言うと、低めの場合、フォークボールはワンバウンドしてほとんどボールになるが、高めから落とせばストライクとなる。つまり、打者は見逃せばどちらもストライクとなってしまうから、振らざるを得ない。

 

打者

どんな打者が優れているかという指標だが、チームの勝利に貢献できる選手という意味においては、「得点力」の高い選手が優れた選手だ。では、どんな数字を持っていれば、優れた選手なのか。もちろん、打率、打点、本塁打の数字が一番わかりやすいが、「得点力の高い選手」という指標においては、「OPS」が最も重要視される。OPSは、出塁率長打率を足した数字である。これが、1.0を超えると「超一流」と言われる。

では、OPSを高めていくためには、どんなアプローチが必要か。出塁率長打率の両面を上げていく必要があるが、そのためにはまず長打率を上げることだ。なぜなら、長打が多いとバッテリーは甘い球を投げづらくなり、必然的に四球が増えるからだ。

では、長打を打つには、つまり、飛距離を伸ばすためには、「打球速度」と「打球角度」の2点が重要である。まず、打球速度でいうと、150キロを超えると本塁打割合が一気に増えていく。それと同時に二塁打と単打の割合も高まる。つまり、バッティングにおいては、「打球速度は速ければ速い方がいい」と断言できる。

もうひとつの指標である「打球角度」だが、バレルゾーンと呼ばれる角度がある。おおよそ26度〜30度と言われているが、打球速度によってその角度の幅が違ってくる。最低でも時速158キロは必要だが、187キロを超えると、ほぼどんな角度でも本塁打になる。

そして、最も打球が飛ぶインパクトというのがある。それは、ややアッパー気味(19度上向き)で、かつ、ボールの中心より0.6センチ下を捉えることだ。このインパクトの仕方が最も飛ぶことがデータで証明されている。ちなみに王貞治氏は、17度上向きスイングで本塁打を量産していたことが分かっている。王さんと言えば、素振りの時は超ダウンスイングをすることで有名だが、あれは、もともとのアッパースイングの癖を修正するために、意識付けをしていたということだ。実際の球を打つときにはアッパースイングになっている。

メジャーでは極端な内野シフトを敷かれているので、ゴロを打ってしまえばアウトになる確率が上がる。そのため、内野や外野の頭を越える打球、つまり単打より長打を狙う選手が増えてきた。これを「フライボール革命」という。

 

最後に

メジャーリーグというのは、あらゆるデータを活用して、いかに「勝つ確率」を上げるかということにフォーカスしている。だからあんな極端な守備シフトを敷くし、フライボール革命も起きる。でも、これが行き過ぎると、観ているファンからすると、あまり面白くないスポーツになる。イチロー氏も危惧していたが、これだと、選手が自分の頭で考えなくなり、指示された通り動くだけの操り人形のようになる。打者も単打ではなく長打ばかり狙う選手が増え、ベースボールの醍醐味でもあるベースランニングの「スピード感」を失ってしまう可能性がある。いい当たりをしても野手の正面ばかりではなんとなくつまらない。それを問題視し始めたのか、来年からは極端な守備シフトを禁止する動きもある。

このように、ベースボールも常にアップデートして魅力的なスポーツにしていく必要があるのだろう。