気ままに本要約ブログ

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医療崩壊 真犯人は誰だ

新型コロナによる「医療崩壊」というワードは、パンデミックが始まった時からずっと叫ばれ続けてきた。

度重なる緊急事態宣言による行動自粛の要請、飲食店、小売店の営業制限。国民は我慢に次ぐ我慢を強いられてきた。

それらはすべて、「医療崩壊」をさせないためだ。

 

いまは全国の新規感染者が200人程度と、かなり収まっている状況だが、デルタが蔓延していたオリンピックの時期なんかは一日2万人を超え、入院できない患者が自宅で亡くなることもあった。医療逼迫がピークの時期だった。

 

でも、よくよく冷静に考えてほしい。日本の病院の数、そして病床数は世界のトップレベルだ。そして、コロナの感染者数は世界に比べて桁違いに少ない。それなのに、なぜ?

現在、日本の医療機関の病床数は約160万床だ。そのうち歯科や精神病床、結核病床など物理的に難しい病床を除くと、全国に90万床程度は潜在的にコロナ患者に対応できると考えられる。

それに対して実際にコロナ患者の入院に使われた病床数は、ほんの一握りに過ぎない。

例えばピーク時の8月18日の入院確保病床数は3万7723床で全体の「4.4%」、重症者用の確保数は5530床で「0.6%」である。

つまり、医療逼迫しているのは、コロナ患者を受け入れているわずか「4%」程の医療機関のみで、必死な思いで働いていたのはそこに従事する医師と看護師のみだ。

これまでのコロナ入院患者数のピークは2万4488人、重症者数のピークは2223人であり、全国に何十万人という医師が居るのに、こんな状態で医療逼迫となるのは、何か構造的な問題があるに違いない。

 

そこで、大きな要因と考えられる項目を3つ取り上げる。

 

多すぎる民間病院

日本の民間病院の比率はおそよ8割と、世界的にみても突出して多い。つまり、行政の指示、命令で動く公立・公的病院とは異なり、政府の要請に従わない民間病院が多いということは、政府がコントロールできないということだ。

そして、民間病院は小規模の病院が多いため、構造的にもコロナ患者を受け入れられない。コロナの病床は、一般病床とは隔離しなくてはいけないし、医療スタッフの人数も必要であり、小さなクリニックや診療所ではそもそも受け入れが不可能だ。

受け入れた場合でも、その他の患者が寄り付かなくなるし、民間である以上、経営的にみて不利益となることはやらないだろう。

ということで、日本は小規模な民間病院の割合が多いため、コロナ対応できる病院というのはごく僅かとなってしまった。

 

病院間の不連携・非協力体制

病院の数自体は多いが、ほとんどが民間病院でそれぞれが独立して運営しているため、連携や協力関係が決定的に不足している。これは我が国の医療提供体制が長年抱えている構造的問題そのものであり、かなり根が深い問題だ。

たとえば、重症患者を受け入れられる十分な設備が揃っている大病院と、軽症者を受け入れられる中小病院とが連携すれば、症状によって患者を速やかに「転院」させることができる。

つまり、病床数の見える化をし、常に情報共有をしていれば、入院患者が偏るといったことが無くなる。もっと言えば、県をまたいで転院が出来れば理想的だ。ヨーロッパなんかは国をまたいでコロナ患者を受け入れしている。

なぜ連携が取れないのかというと、日本は、患者がどこの医療機関に行っても良いという「フリーアクセス」の医療提供体制だからだ。患者がどこの医療機関に行ってもよいということは、医療機関はお互いが皆、「商売敵」となるからだ。

 

政府のガバナンス不足

政府のガバナンスが機能しないとは、①誰が司令塔になっているのかが分からず、②官邸および官庁間の役割分担、国と地方の役割分担が曖昧で、③権限や責任、指示系統が明確ではないので民間を含めた現場組織がうまく動けず、④現場組織同士の連携・協力関係もうまく噛み合わないということだ。

コロナ禍という大災害が起きているのに、災害対策本部が右往左往して司令塔として機能していない状態と言える。

とりわけ、「国と地方のガバナンス問題」においては、医療法や感染症法により、感染対策や病床確保は都道府県が担うものと規定されているため、厚生労働省は事実上、コロナ対策を都道府県に丸投げしていた。特措法にも、都道府県が対策を実施する主体であり、国はその支援をするだけの立場となっている。つまり、様々なコロナ対策が失敗した時に責任を取らされるのは都道府県である。そのため、知事たちはおよび腰になっていたと考えられる。

そして、都道府県同士の連携も皆無だった。病床数の空き具合でコロナ患者の受け入れを協力し合えば医療逼迫が偏ることはないはず。

 

まとめ

日本は、戦後の焼け野原状態から民間の力で医療体制を作り上げていったため、これだけ中小規模の民間病院が増えていった。そして、日本医師会が政治的にも巨大な利権を持つようになった。

病院の数自体は世界トップレベルだが、皆商売敵であるため横のつながりはない。競争原理が働くため医療レベルが上がるという意味においては良いのだが、いざ感染症パンデミックなどの「有事」には対応できない。都道府県の横のつながりもない。

つまり、緊急事態に対応できない医療機関の構造上の問題が、今回のコロナ禍で浮き彫りとなった。

せっかく、新型インフルエンザの際に作った特別措置法があるのに、肝心なガバナンス(統治)は曖昧なままだった。

今回のコロナパンデミックが終息した際は、ぜひともそのあたりの法整備をしておいて欲しいものだ。

多分やらないだろうけど。