稼ぐ!プロ野球 新時代のファンビジネス
一昔前までのプロ野球は親会社のタニマチ的存在だった。野球自体では稼げない。親会社の広告媒体であるというのが通説だった。
その大きな要因として、1954年に国税庁からの通達により、子会社である球団への赤字補填は「広告宣伝費」として損金処理ができるようになったことだ。
そして、一番の収入源である「巨人戦」の放映権料は1試合1億円とのこと。他球団は巨人戦が稼ぎ頭だった。
あの西武黄金時代ですら観客は満員ではなかった。つまり、当時はコアな野球ファンのみが観戦するだけのプロ野球だった。球団も集客の努力をして来なかった。
ほとんどの球団は赤字経営が続き、ついに2004年に球団縮小の動きが出た。球団オーナー達(特に読売、西武、オリックス)が12球団から10球団にし1リーグ制にしようとしたが、選手やファンが猛反対し世論を動かして何とか食い止めた。
その翌年2005年からプロ野球界は変革の時期を迎えることに。
楽天が新規参入し、ダイエーホークスをソフトバンクが買収し、オリックスバッファローが合併、日本ハムが北海道に移転。
変化点はすべてパリーグだが、ここからパリーグは大躍進していくことになる。
世界的エンタメ企業を目指すソフトバンク
ここ11年で7回の日本一を誇る最強ソフトバンクは、年俸総額も集客人数も12球団トップであり、順風満帆だが、球団としてはさらなる「野望」がある。
2020年7月に、PayPayドームのすぐ横に「BOSS E・ZO FUKUOKA」というアミューズメント施設がオープンした。7階建で各階に各種アミューズメントが詰め込まれている。アトラクションやフードホール、吉本劇場やHKT48の専用劇場。
様々なジャンルのエンタメが入った総工費120億円のこのビルは「福岡ソフトバンクホークス」が建てたのだ。
球団がこんな施設を作るのは今までに無かったこと。
球場や選手への投資なら分かるが、野球に関係のないものへ巨額の投資をするのはなぜなのか?
単純に考えると、若年層やインバウンドの集客を強化するための集客装置を作ったのだろう。そして、「ついでに野球も観てもらう」という。
でも実際は、そんな浅はかな考えではない。
ソフトバンクホークスという球団はもっとスケールの大きなことを描いている。
まず、球場のキャパシティはアッパーが決まっていて、すでにほぼ満員状態のため、これ以上の売上というのは野球単体では難しい。これからの少子高齢化も見据え、更なる客層を取り込むために新しいビジネスを立ち上げる必要がある。
ドーム界隈に新たな楽しめる施設を作ることで、単純に多くの人たちに遊びに来て欲しいのだと。
韓国や中国の人が旅行で遊びに来た時に、昼から夜まで遊べてそのまま宿泊できるという、そう、まさにラスベガスのような街にしたい。
遊びに行くならとりあえず「PayPayドーム、E・ZO」に行こうと、そういうリゾート地にしたいという野望。
後日談だが、このE・ZO建設案の前に、ドーム内の球団事務所などを外にビルを作って移して、ドーム内のスペースをもっと有効活用しようという案があったらしいが、孫オーナーが一蹴した。
「そんな小さなスケールで考えてどうする。エンターテイメントに走れ」
球団のスローガンは「目指せ世界一」である。
北海道日本ハムがボールパーク建設に込めた夢とロマン
今の本拠地札幌ドームから、2023年に移転が決まっていて、その新球場を今まさに建設中だ。
札幌ドームは道内の財界企業が出資している第3セクターで、札幌市が所有しているため、日本ハムは単に場所を借りて野球をしている状態に過ぎない。
つまり、球場を自由にイジれない。客席を増やしたり看板をデジタル化したりグッズ販売やフードの販売を自由に出来ないなど。
球団による「野球ビジネス」が自由に出来ないという構造上の問題がある。
そのため、自前の球場を持ち自由にビジネスが出来るよう移転に踏み切った。
ただそれは、最低条件であるとして、球団としてはもっと先を見据えた壮大な「夢やロマン」がある。
ちなみに、プロ野球12球団で自前の球場を保有、あるいはグループ企業が球場を保有しているのは、ソフトバンク、西武、オリックス、阪神、横浜DeNAの5球団。
指定管理者制度などで運営や営業権を得ているのが、楽天、千葉ロッテ、広島カープ。
使用料を払って借りる形を取っているのが、巨人、ヤクルト、日本ハム。
中日は親会社の中日新聞社とその他複数企業が出資したナゴヤドームに、使用料を払って借りているという形。
話を戻すが、日本ハムの新球場の場所は北海道北広島市で、32ヘクタールの巨大な敷地を予定している。甲子園9個分の広さだ。
もちろん球場だけなら5ヘクタールあれば十分だが、日本ハムの描くものは「新たな街づくり」だ。
そこにはホテル、アリーナ、陸上トラック、病院、幼稚園、小学校。2027年に完成予定の新駅付近には移住空間、スケート場やSPA、アクティビティ施設など、これは本当に新たな街が出来ることを意味する。
野球場は本格的なメジャーのボールパークのようにする。ドームではなく天然芝の屋外球場。子供たちがワクワクするような球場。ブルペンも外野フェンス外に作られ、お客さんと触れ合える距離にする。
今回の本拠地移転は、単なる移転ではなく「壮大な未来図」が描かれている。
ライオンズの「球団映像」を制作する意義
まず、プロ野球のテレビ放送の大きな流れとして、昔は地上波での「巨人戦」のみ数字が取れていた。
それが次第に視聴率が取れなくなり、地上波からBS、CSへ、そして最近ではサブスクのDAZNへ移行していった。
多様化した現代において、全国民が同じように興味を持ってもらうのが難しい。
逆に言えば、贔屓にしているチームの試合は深く観ることが出来る。実際、チームの本拠地のある地域での視聴率は高い。
もうすでに、個人が好きなコンテンツを自由に視聴できる時代に突入した。
そんな中、ライオンズの映像責任者である元プロ野球選手の高木大成は、様々な改革を行なっている。
今まではテレビ局に「放映権」を売って、その中継に関わるすべての手配(中継車やカメラ配置やスタッフ、アナウンサー、解説者)をお願いしていたが、これを球団の自前で行うということだ。
つまり、映像自体を球団が制作して、放映権だけでなくその映像(コンテンツ)をテレビ局へ販売する形。
これの何が良いかというと、著作権の問題が大きい。球団側に映像コンテンツが残るということは、それを自由に切り売りが出来る。スポーツニュースで使いたいという番組制作会社にも売れるし、たとえば西武鉄道内のデジタルサイネージで広告を出したい企業に、タイアップという形で試合の映像を使える。
池袋駅の巨大なデジタルサイネージも西武鉄道内なので自由に使える。
これを対戦相手の球団へ売ることも出来る。通常はホームチームの贔屓目線で作られるが、カメラ配置を追加して、対戦相手の贔屓目線でカメラワークをすることが出来る。
このアレンジした映像を対戦相手の地域のテレビ局へ売れば、その放送局は独自のアナウンサーと解説者を立てればライブのテレビ中継が可能になる。
メジャーの試合をNHKが国内から実況、解説しているのと同じように。
SNS時代の情報発信とは
各球団が持っている公式YouTubeチャンネルが増えてきた。というより全球団あるのかな。
球団の広報はあれこれ工夫して多くのフォロワーを集めている。
ソフトバンクは元キャスターの女性が担当している。ロッカーやベンチ裏の様子や選手のオフショットを発信している。カメラの位置が低く、女性目線で見ることが出来るのがリアルである。
松田の声かけで有名な試合前の円陣の映像もソフトバンクが先駆けだ。
千葉ロッテの広報はまたサンケイスポーツの記者で、選手個人にフォーカスしてインタビューしたり記者さながらの映像を撮っている。
オリックスの広報は元プロ野球選手で、選手の練習風景だったり、吉田正尚のインパクトをまとめた映像などマニアックなものを撮っている。
いずれも、今までテレビでは到底観られなかった映像をYouTubeで発信することでコアなファンの獲得をしている。
まとめ
2019年の観客動員数は過去最多を更新した。令和の時代のプロ野球はスタジアムに遊びに来てもらうという仕掛けが必要になる。
単に野球そのものを観戦するだけじゃなく、エンタメ要素を取り入れてレジャー施設同様に子供も女性も楽しめることが重要だ。
ソフトバンクや日本ハムは野球場単体のビジネスではなく、メジャーのような「街づくり」を目指している。
あと4〜6球団くらい増やして全国各地で地域おこしのように盛り上げていければ理想的だ。