アイアンハート
伝説の経営者「折口雅博」さんの自伝。
有名すぎるディスコ「ジュリアナ東京」「ベルファーレ」の生みの親であり、日雇い派遣の「グッドウィル」、介護サービスの「コムスン」を創った人。
幼少期から防衛大学時代、そして社会人となりグッドウィルグループを創り、崩壊していくところまで読み応えがあった。
父が中小企業の社長で小さい頃はお坊ちゃんだったが、父の会社が倒産してから様相が変わる。
一気に貧乏になった為高校からは学校に行きながら給与がもらえる陸上自衛隊少年工科学校に入学し、猛勉強の末に、防衛大学に進学した。
なお、習い事は武道が中心で、小学生から武闘派として自分の身は自分で守っていた。高校、大学でも空手や柔道など武道を突き詰めた。
そして、就職ではもともとパイロットを目指していたのだが、大きな仕事をしたいという事で、商社大手の日商岩井に就職したがその入り方もすごい。会社四季報を見ながら大手商社に片っ端から電話するという破天荒ぶり。
結果、日商岩井の人事課長に気に入られ採用してもらった。
入社後もバリバリ営業して実績を残していた。そして転機が訪れたのが、英国最大のレジャー企業と日商岩井が業務提携した時、芝浦の倉庫を活用してディスコを作ろうというアイデア。
上司に提案し、倉庫のオーナーと交渉し、なんとか折り合いつけたが、初期費用はなんと個人の借金で工面したとか。
そして完成したディスコ「ジュリアナ東京」はヒットした。平日1000人、週末2〜3000人を集める爆発的人気ディスコとなる。
ターゲット層は、エリートビジネスパーソンやOL。当初は無料招待券など配って常に満員になることを意識した。満員状態がディスコのブランドとなりお客がお客を呼ぶ。
ディスコのセンターピンは「満員」であると。
そしてオープン後4ヶ月で月に1億円の利益が出た。しかし仲間内で利益の奪い合いが始まり折口氏は排除されてしまう。
ジュリアナ東京自体も最後は内部の訴訟合戦でその幕を閉じることに。
日商岩井を辞め、ジュリアナ東京を追い出された折口氏は多額の借金を抱えることになった。消費者金融やトイチにまで手を出さざるを得ないくらいに。
ただ、ここで不屈の精神で一発逆転を狙い、ジュリアナを超えるディスコを作るために場所探しに奮闘していた。
そこで見つけたのが六本木のあるビル。オリックス、avexの協力を得て1994年に「ヴェルファーレ」が誕生する。そして大ブレークする。
浜崎あゆみもこのヴェルファーレでデビューのきっかけを掴んだと言われる。
しかし、ここもオーナーの意向が変わり経営権を奪われることになり、1年半後に辞めた。
ジュリアナ東京もヴェルファーレも、自分が企画して作ったにも関わらず利権を持った人たちに追い出される格好となった。
ヴェルファーレ立ち上げ後、信頼するパートナーと1995年にグッドウィルを設立した。軽作業アウトソーシング、いわゆる日雇い派遣なのだが、正確には「派遣」じゃなく「請負」。
もちろん同業ライバルもいたが、コンピューターを使ったマッチングシステムと、金融機関から多額の融資を引いたことによる資金力で他社より抜きん出た。拠点展開を急拡大することで売上も2001年には売上500億円突破した。
一方、1997年に介護会社「コムスン」に資本参加していて、2000年の公的介護保険が施行された際に、全国に1200拠点へ拡大させた。
結果、急ぎ過ぎた事で300拠点へ統合することになるが、知名度は一気に上がった。
2000年に7億だった売上は、2005年には500億を突破し、日本の介護最大手として君臨していた。
2004年にグッドウィルグループは東証1部に上場を達成し、売上はゼロから10年で1400億円を達成した。
そして、2006年にあのクリスタルの買収劇がある。
クリスタルは非上場のオーナー独裁会社で、グループ子会社を70社展開し売上は5千数百億もある、人材会社売上No.1を誇っていた。
グッドウィルの売上の3倍近くある会社をM&Aするという離れ業を成し遂げた。
クリスタルのオーナーは高齢で健康不安から会社をバイアウトしたいと思っていた。そこで、1週間で880億円用意する会社があるなら売ると言ったそう。そこで折口氏の手腕でなんとそれを実現させた。
後日談だが、クリスタルのオーナーは同業には売りたくないと言ってたらしいが、間にファンドを挟んだ事でグッドウィルがバックにいた事を知られなかったとのこと。
鮮やかな買収劇でグッドウィルグループは売上7700億円の人材業界No.1の企業となった。
そしてそこから1年足らずでグッドウィルグループ崩壊の足音が聞こえてくる。
まずコムスンのバッシングからだ。発端は何箇所の施設で「過誤請求」、つまり間違った点数で国に請求してしまう事務上のミス。これをマスコミでは「不正請求」という言葉となり、まるで意図的にやっているようなイメージを植え付けられた。
そして大きな事として、介護保険法の改正が行われていた事だ。一箇所でも問題を起こした場合には同会社の全拠点が連座責任を負うという内容だ。
この法改正の検討チームには民間企業の人間が一人も居なかった。つまりコムスンを狙い撃ちしたような法改正とも言える。
全国2000拠点あったコムスンの施設は、5年間営業停止という、死刑宣告のような措置を取られた。
一方マスコミにはネガティブキャンペーンを貼られ、世論からも批判を浴びた。
さらに追い討ちをかけられたのが、日雇い人材派遣の「二重派遣問題」だ。派遣先がさらに派遣するという行為。でもこれは派遣元としては防ぎようがない事。そして、多かれ少なかれどの日雇い派遣会社も起きていること。
ここをマスコミがついて猛烈にバッシングを浴びることに。
そして最後の結末としては、バッシングによる株価急落によって、銀行がグッドウィルの債権をアメリカのファンドに売ってしまったことで、実質的にグッドウィルグループの経営権を奪われることになった。
これで折口氏の伝説が一時幕を閉じた。
その後、ニューヨークに渡り、グッドウィルの時に作った高級和食レストラン「MEGU」の雇われ経営者になり、そこから復活劇を遂げる。
余談だが、MEGUの2号店はトランプタワー内に出店する際にトランプと会っている。(2005年当時)
超セレブたちが利用するMEGUは有名になり、主要国へフランチャイズ展開することに。そして最高位のシックススターダイヤモンドという賞を受賞した。
世界で成功したその「MEGU」を売却して、今の経営コンサルティングの現在に至る。
この本を通して折口さんという人がよく分かった。
彼は一流の経営者であり、イノベーターであり、人格者だ。当時のバッシング報道がされた時期はマスコミに悪のイメージ付けがされたが、間違いなく彼は本物であり、伝説を残した日本を代表する経営者だ。
でも、日本では目立ちすぎるとひきづり降ろされるんだなあとつくづく感じる。何か大きなものに半ば強制的に。そういう意味ではホリエモンと同じだな。